咬筋(エラ)ボトックスの効果や合併症と対策などについて
今日は、俗にエラボトックス・小顔ボトックスとも言われる咬筋ボトックスの効果と問題点について解説したいと思います。本ブログは医師向けに書いたものを再構成して書いたものです。一般の方には少し難しい表現も含まれますが、ボトックスマニアの同志諸君!マニアなあなたのために書きました。ぜひ読んでね❤️
ボトックスには、表情筋を緩め、表情シワを改善させる効果がよく知られていますが、それだけでなく、筋肉を小さくする作用や分泌腺を萎縮させるが知られており、これを利用して以下のような効果を得ることも可能です。
エラ(咬筋)ボトックス→小顔
耳下腺ボトックス→耳周りにある耳下腺を小さくする
肩(僧帽筋)ボトックス→肩のハリを減らして首を長く見せる
ふくらはぎ(腓腹筋)ボトックス→ふくらはぎを細くする
ボトックスを打つことで筋肉や腺組織は働きが少なくなってボリュームが減ること(廃用性萎縮)を利用した方法です。
今日は、その作用のうち、エラ(咬筋)のボトックスについて解説したいと思います。
まずは症例のご紹介から。
【症例】
症例)20代女性
ボトックスビスタ®を左右の咬筋に各25単位ずつ注射しました。施術4週後には、いわゆる小顔効果が得られました。
【効果の持続】
咬筋にBTxを投与すると、
①1〜2週で筋収縮が弱まり、
②2〜4週間で筋量減少の効果が現れ始めます。これが俗に言う小顔効果です。
③10〜12週間で効果は最大となります。
④3~4か月後に再び筋肉の収縮が回復し始めます。
参考文献)Kim NH, Chung JH, Park RH, Park JB. The use of botulinum toxin type A in aesthetic mandibular contouring.Plast Reconstr Surg. 2005 Mar;115(3):919-30.
当院では、5〜6ヶ月間隔で再施術いただく方が一番多いです。
筋肉の量を最大限小さくしたい場合は、6〜8週後の状態で20〜40単位程度、追加施術することもあります。
筋肉量の回復には個人差が大きく、数回の施術で数年にわたって筋肉が萎縮したまま保たれることもあります。
【施術方法】
多くの場合、初回は片側あたりボトックスビスタ®️20〜25単位(全量で40〜50単位)を投与します。
筋肉量が多い場合や男性では、片側あたり30〜40単位(全量で60〜80単位)を投与することもあります。
筆者は、安全かつ効果的なBTx施術を行うため、咬筋と下顎角の位置などを確認しマーキングを行ってから片側5箇所程度に施術をしています。
図)Woffles T L Wu : Botox facial slimming/facial sculpting: the role of botulinum toxin-A in the treatment of hypertrophic masseteric muscle and parotid enlargement to narrow the lower facial width、Facial Plast Surg Clin North Am. 2010 Feb;18(1):133-40.より引用
咬筋は3層に分かれています。施術中は、針先で下顎骨を捉えて咬筋の深層に注射した後、針を引いて咬筋の中間層、浅層にも注射します。
施術後4〜8週後に来院してもらい、まだ筋肉の動きが残っており、かつ患者さんがさらに筋肉を小さくすることを希望する場合は、片側あたり20〜40単位を追加施術します。(当院では初回施術から2ヶ月以内の追加投与は10単位毎に8,000円が必要です)
図)咬筋ボトックスの施術部位 引用元:西田美穂「輪郭を整えるボツリヌストキシン治療」BEAUTY#46 医学出版2023
【合併症や問題点】
・笑筋への予定外拡散で笑いづらくなることがある。
咬筋の前方には笑筋が付着しているため、ボトックスが予定外に拡がることで笑顔の非対称を起こすことがあります。施術時の針の位置や深さ、向きに気をつけることが重要であるため、当院では慎重にマーキングを行ってから施術しています。
・小顔にはなっても若く見えるとは限らない。
咬筋が小さくなると、フェイスラインのもたつきが目立ちやすくなることや、相対的に頬骨が目立ちやすくなり「頬コケ」が目立つことがあります。こうしたことから、もともとフェイスラインのたるみを気にしている患者や、40代以上の痩せ型の患者には「エラBTxで小顔効果が得られたとしても、かえって老けて見える可能性があること」に注意が必要です。
「たるみが目立つのは困るけれど、小顔にはなりたい」という要望の場合は、BTxの初回施術単位を減らして、(片側15〜20単位程度)筋肉の急速な萎縮を避け、筋肉の萎縮効果が最大となる2〜3か月ごとに経過を見ながら追加することもあります。
「頬コケ」を起こさないためには、咬筋の下部のみに打つことを推奨する記述もありますが、筋肉のボリュームを小さくすることを優先させればさせるほど、どういう打ち方をしても「頬コケ」のリスクは増えます。輪郭を整えるために咬筋を萎縮させた後の頬コケは、頬骨の下の部分にヒアルロン酸を注入すると改善します。
・パラドキシカルバルジング(逆説的膨らみ)
咬筋のBTx施術より数日〜4週後の食いしばった際に、元の状態よりも余計に咬筋の一部の膨らみが目立つことがあります。この現象は、「パラドキシカルバルジング(逆説的な膨らみ)」と呼ばれ、BTxが作用した部位の筋肉が弛緩し、作用していない部位の筋肉が代償的に強く収縮するために生じます。
パラドキシカルバルジングについての詳細はコチラも読んでね。
↓この症例は私です。この写真を撮るためにわざと合併症を作りました。
この膨らみは咬筋に存在するdeep inferior tendonが筋腹を隔ていることや、咬筋の構造が三層であることで、BTxの均等な拡散が阻害されるためと考えられています。(文献1)これを防ぐためには、咬筋の表層、中層、深層に層ごとにBTxを分散させるように注射を行うことや、極端な効きムラを避けるため、刺入箇所や注射液量を減らし過ぎないことが推奨されます。
凹凸が軽度である場合は、1〜2週程度で自然に改善することも多いですが、2週間経っても改善されない場合は、強く収縮する部位にBTxを5〜10単位程度を追加で注射すると多くの場合改善します。
文献1)Lee HJ, Kang IW, Seo KK, Choi YJ, Kim ST, Hu KS, Kim HJ. The Anatomical Basis of Paradoxical Masseteric Bulging after Botulinum Neurotoxin Type A Injection.Toxins (Basel). 2016 Dec 30;9(1):14.
咬筋(エラ)のボトックスは、これらの合併症とその予防について学ぶことで、安全で効果的な治療が可能です。
ぜひご相談にお越しください。
Beauty Tuning Clinic
092-717-8640
本記事の内容は医学雑誌BEAUTYの「輪郭を整えるボツリヌストキシン治療」に書いた記事の一部をブログ用に書き直したものです。詳細は雑誌BEAUTYをご覧ください。
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