美容皮膚科学会2024シンポジウム講演 額のボトックス治療について(美容医療初学者の医師向け)
美容皮膚科学会2024年のシンポジウムで講演した内容をまとめました。
美容医療を始めたばかりの先生に、自分の経験がお役に立てたら幸いと思い、
額のボトックス治療の話を今回のテーマに選びました。
承認製剤のセミナーでは額のボトックスの話をすることは出来ないので、
今回、額のボトックスについては人前でほぼ初めて話しました。
以下の内容は、講演したスライドの一部を抜粋してまとめたものです。
患者さんとスタッフの協力のおかげで、多数の症例写真を出したため、
個人情報保護の観点から、後日の学会のオンデマンドでは配信致しません。
額のBTx治療では、患者の期待と実際の治療効果に大きなズレがあります。
患者は、ボトックスはシワ取り注射だ、BTxを打てばシワが消える!
と思っていることが多いですが、
ボトックスはシワ取り注射ではなく、筋肉を弛緩させる治療です。
また、額のシワを気にする患者さんの多くは
そのシワのそもそもの原因となっている瞼や前頭部のたるみの自覚は乏しく、
眉毛を持ち上げることで努力性に目を大きく開こうとしている自覚もありません。
こうした状態で
唯一の眉毛挙上筋である前頭筋を弛緩させると、
目の開きに不具合を生じることがあります。
ボトックス治療で前頭筋を弛緩させた場合の
開瞼の不具合の有無や
見た目の変化をシミュレートし、
その状態を許容できるかどうか
患者に事前に確認する必要があります。
我々はそのシミュレートの方法として
ボトックス治療の前に前頭筋負荷テストを行なっています。
その方法について簡単に述べます。
①額のシワを主訴とする患者を閉瞼させます。
②眉毛が一番高く持ち上がる場所を確認し、
眉毛から一横指程度の位置で前頭筋の動きを抑えます。
③ゆっくり開瞼させ、瞼を開ける時に重さなどの不具合があるかどうか、
その状態で鏡を見てもらい、
二重の幅などに違和感を感じるかなどを確認させます。
そこで開瞼に問題がなく、見た目に違和感がなければ
前頭筋にBTxをしっかり作用させても問題がありません。
もし、何らかの不具合がある場合は④に進みます。
④指で固定した位置をヘアライン側にずらして、
もう一度同じように不具合の有無や見た目を確認させます。
違和感のない位置があれば、
その位置まではボトックス作用させても問題が少ないと考えられます。
負荷テストを行った結果、
問題なく目が開けば
ボトックスをしっかり前頭筋に作用させても問題がありません。
眉毛の動きを抑えると
二重幅が狭くなったり、瞼にまつ毛がかぶさるという場合には
瞼のたるみがあるため、患者さんに説明します。
鼻根部に横ジワができる場合や、眉の内側の位置が下がって目つきが悪くなる場合には
前頭部のたるみがあることを患者さんに説明します。
50代以降の患者では
瞼のたるみと前頭部のたるみが両方ある場合も多く
説明が不十分なままボトックスの治療を行うと
治療後に目が開きづらい、目つきが悪くなったなどの不満な結果に繋がりがちです。
この負荷テストで、
額のシワの改善のためなら、
多少の不具合を受け入れることができるかどうかを確認します。
前頭筋負荷テストのキモはここです。
前頭筋負荷テストによるシミュレーションというステップを通じて
ボトックスは前頭筋を弛緩させる治療であること
瞼や前頭部に無自覚のたるみがあることを
しっかりと患者さんに理解していただくことがこの負荷テストで最も重要な点です。
額のBTx後の不満足結果を防ぐため
前頭筋負荷テストによって
患者が自身の額のシワの潜在的な原因を知り
BTx治療について理解が得られたら・・・
次はシワの状態に応じた適切な施術を行います。
額のシワを減らしつつも
開瞼の不具合を最小限に留めるように施術を行う必要があります。
色々なシワのアセスメントの方法や治療の考え方があると思いますが
今日は、なるべくシンプルに、初学者の方でも分かりやすいように
どこに打てば良いかはシワが教えてくれる。
というコンセプトで
シワのどこが深いか?によってボトックスの打ち方を考える方法をお伝えしようと思います。
シワの特徴に応じた打ち方について模式図でまとめました。
垂直方向では
内側が深い場合は 皺眉筋の協調が強いため
前頭筋と同時に皺眉筋を施術した方が良いと言えます。
また
外側が深い場合は
前頭筋の外側線維が強いことを意味し
額の外側までBTxを作用させることが必要です。
次に水平方向では
頭側が深い場合は治療が比較的容易ですが
眉毛側が深い場合は、治療が難しいと言えます。
この場合は、眉毛下垂を最小限に止めるため
皮内注射で細かく施術を行います。
額のBTx治療では
前頭筋負荷テストで適応を見極め、
シワに合わせて
丁寧に施術することが重要です。
どこに打てば良いかはシワが教えてくれます。
しっかり観察して、一人一人の患者さんに添った治療を行いましょう。
西田美穂